一般住宅で鉄部を使用している箇所といえば、ベランダの手すりやトタン屋根が代表的。そうした鉄部の外壁塗装では、モルタルやタイルなどにはない「サビの発生」がつきものです。では、プロの塗装職人は、どのようにしてサビ対策をしているのでしょうか? そこで今回は、実際に外壁塗装の現場で実践している、鉄部塗装の手順やサビ止めの方法のほか、価格相場などもご紹介します。
サビが発生する原因と対処方法
鉄部の塗装は、モルタルなどの一般的な外壁材と比べて、耐久性が短いといわれています。そうしたなか、腐食するスピードの速いサビが発生すると、塗装してある鉄部にまで一気に広がるほか、鉄自体の強度も弱めてしまいます。
*外壁塗装におけるサビが発生する原因
通常、鉄部に塗装を施した状態では「塗膜が覆っている」ため、サビは発生しません。ただ、経年劣化や地震などにより、塗装に「ひび割れ」などが生じ、鉄部が剥き出しの状態になると、サビは発生します。その理由は、剥き出しの鉄部に雨が反応するためです。サビというのは、雨や湿気による酸素を含んだ「水分と塩分」が、鉄に触れることで「酸化鉄」になった状態を指します。また、繁殖力のあるサビを発生させてしまうと、横広がりと鉄の細部(下部)の腐食が同時に進行します。そのため、まだ塗装されている鉄部の塗料が剥がれ落ちるだけでなく、放置状態によっては指で押すだけで躯体部分が曲がるケースも珍しくありません。
*サビの対処方法
さて、ここからが本題です。サビに対処すべくプロの塗装職人というのは、主に4つの方法を採用しています。それが、酸を用いた洗浄、サビ止め用の塗料を使用する、ケレン作業を施す、酸素と水を遮断する補助剤を使う、という4つです。
- 酸を用いた洗浄
リン酸を主成分とした「脱サビ剤」などを使うのが、酸の洗浄です。空気より鉄との相性がよいリン酸は、反応後にリン酸塩となって「皮膜」をつくり、赤サビの発生を防ぎやすくします。また、すでに発生している赤サビにも効果がある、といわれています。
- サビ止め用の塗料を使用する
サビ止め用の塗料とは、サビの進行を止めるものではなく、サビを出しにくくするために使用するものです。つまり、防カビ効果を持つ塗料であり、鉄部必須のアイテムといっても過言ではありません。
- ケレン作業を施す
こちらは、すでにサビがある状態で、サンドペーパーやサンダーなどを用いて、サビを研磨して除去する下地処理の一つです。ケレンには4種類ありますが、一般住宅では2~4類型で対応するのが一般的です。
- 酸素と水を遮断する補助剤を使う
ケレンで対応しきれない場合ほか、サビやすい部位で使うのが、こちらの補助剤です。2液型の特殊変性エポキシ樹脂系塗料が主流といわれ、サビを固めることで酸素や水を遮断する効果が期待できます。約4時間と乾燥硬化が早いのも特徴です。
鉄部塗装の手順と適した塗料
実際に鉄部塗装をする際は、前述した「サビの対処方法」を用いて、サビを落とす工程からスタートします。ここでは、ケレン作業と代表的なサビ止め塗料について触れながら、鉄部塗装の一連の工程を解説します。
- 劣化塗膜ケレンで除去する(ケレン2種)
サビによる腐食はもちろん、旧塗膜の劣化も同時に取り除くのがケレン2種です。発サビ面積が30%以上と広範囲の場合に対応するケレンで、主に鉄骨構造の建物が対象となります。ディスクサンダーやワイヤーホイールなど、強力な電動工具を使用するため、時間を要するのが特徴です。
- サビをケレンで除去する(ケレン3種)
ケレン2種に比べて発サビ面積が5~30%未満と狭く、大がかりなケレン作業を必要としないのがケレン3種です。主にサンドペーパーやワイヤーブラシなどの手工具を用いて除去し、部分的で軽度なサビをケレンします。
- 塗料の密着性を高めるために研磨する(目粗し)
目粗しは、ケレンの程度が最も軽い状態の「ケレン4種」にあたる工程です。塗料の密着性を高めるのが主な目的で、鉄部の表面に細かな傷を付けることにより、塗料の接触面積を広げます。
- 下塗り
下塗りではサビ止め用の塗料を施すのが一般的で、主に「エポキシ樹脂系」という塗料が使われます。また、噴射式のスプレーガンではなく、刷毛やローラーを用いて塗装します。
- 中塗り&上塗り
中塗りでは下地を保護する塗料を使い、上塗りにも同じ塗料を用います。塗料の種類は色や価格などさまざまですが、耐久性を求めるのであれば「シリコン塗料」「フッ素系塗料」が代表格。
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鉄部塗装の価格と特徴
ここでは、前述した鉄部塗装の手順や塗料を踏まえながら、工程ごとの価格相場をベースに「鉄部塗装の合計額」を出してみました。まずは、エポキシ樹脂系塗料が主流といわれる、サビ止め塗料の種類と特徴から見てみましょう。
*サビ止め塗料の種類と特徴
- 油性系のサビ止め塗料
防サビ性に優れているものの、乾燥に時間を要するのが油性系のサビ止め塗料です。そうした作業効率の問題があるため、現在では使用される機会も減っているようです。
- 合成樹脂系のサビ止め塗料
油性系のサビ止め塗料より防サビ性は劣る反面、乾燥しやすくきれいな仕上がりを期待できるのが合成樹脂系のサビ止め塗料です。「フタル酸樹脂」「エポキシ樹脂」「ウレタン樹脂」といった合成樹脂に、サビ止め顔料が配合されています。
- エポキシ樹脂系のサビ止め塗料
合成樹脂系のサビ止め塗料の中でも、使用頻度が最も高いといわれているのがエポキシ樹脂系のサビ止め塗料です。その特徴は、高い防カビ効果を望めるだけでなく、付着性・防食性・耐久性も兼ね揃えた、オールマイティーなところにあります。
*鉄部塗装の価格相場
- ケレン3種/6,000円
- ケレン2種/4,000円
- ケレン1種/2,000円
- エポキシ樹脂系のサビ止め塗料/5,500~7,000円
- 中塗り&上塗り/12,000~40,000円(ウレタン系塗料・シリコン系塗料・フッ素系塗料の3種類を使用した場合)
- 合計/29,500~59,000円
つまり、鉄部塗装の価格相場は、塗装箇所にもよりますが「おおむね4万円前後」と見積もっておけばよいでしょう。
鉄部塗装の劣化を確認する方法と注意点
鉄部塗装で最も注意したい点は、なんといっても「サビの発生」です。サビを防ぐためには、鉄部塗装の劣化状態を確認したり、耐用年数の目安を把握したりすることが大切です。そのほか、鉄部塗装を検討する際は、色選びにも注意しなければなりません。
*鉄部塗装の劣化を確認する方法
鉄部も含めた外壁塗装全般でいえるのは、塗料の劣化に段階があることです。外壁塗装は雨や紫外線などにさらされるため、塗料を施すことで「塗膜」と呼ばれる保護効果も持たせています。しかし、その効果がいつまでも続くとは限りません。経年劣化を伴うと、塗膜の艶がなくなったり、色褪せしたりなどの症状が出はじめます。サビは、鉄部の劣化で最も悪化したレベルのため、手遅れ状態といっても過言ではないでしょう。そうしたとき、簡単に鉄部塗装の塗膜の状態を確認できるのが、チョーキングです。鉄部塗装が色褪せしたあとに発生するチョーキング現象は、その部分を触るだけで塗り替え時期が判断できます。手にチョークのような粉が付着すれば、塗り替えサインです。
*鉄部塗装の耐用年数
鉄部でのチョーキング現象は、塗装後「3~5年」で発生するといわれています。よって、鉄部塗装の塗り替え時期は、5年が目安になります。チョーキング現象を放置しておくとサビの発生につながり、ケレン作業を伴うため、工事費用もかかります。
*鉄部塗装での色選び
外壁塗装では好みの色に合わせた塗料を選べますが、鉄部の場合は色が限られることもあります。主な理由として、「サビ止め用の塗料や補助剤と上塗り塗料の相性」が挙げられます。色選びの際は、塗装業者が提示するサンプルで確認するほか、好みの色との相性も相談しておくとよいかもしれません。
ポイントは「鉄部専用の塗装」について話し合えること
チョーキング現象から依頼にいたったところで、鉄部専用塗料を使用していなければ、5年以下でサビが発生する場合もあります。そうならないためにも見積もり時には、エポキシ樹脂系のサビ止め塗料を使用しているか、サビ止め剤と相性のよい上塗り塗料を提案しているか、ケレンの工程を明らかにしているかなど、鉄部専用の塗装について確認することが大切です。外壁塗装の実績やノウハウを持つ塗装業者であれば、有意義な話し合いが期待できるため、気軽に問い合わせてみてはいかがでしょうか。